2013年5月アーカイブ

否定から入る

 新卒で入社した銀行にはいろんなやつがいた。最初の同期全体が集まった懇親会で、一人一人自己紹介をしていった時に、70名を超える同期を目の前にして、こう言い放つやつがいた。

「初対面の人にはとりあえず否定から入ります」

語句の詳細は覚えていない。でもニュアンスというか、受け取った側の一人である僕は上の言葉をひどく不穏当なものと感じた。たしか、彼はそのあと、こう続けたような気がする。

 

「だって、マイナスからスタートしておけば、あとは印象はよくなる一方だから」

でも、それはひどく言い訳じみていたし、最初のインパクトを弱めるどころか、「あ、冗談じゃなくそうなんだ」と、むしろメッセージ性を強める印象すら持っていた。正直、15年以上もたって、70名以上いた同期の中で、覚えているのは彼のその挨拶くらいだ。自分自身でも何を言ったか、覚えていないのだ。どうせ、あたりさわりのない事言っていたに違いない。

 

facebookの「いいね!」に始まり、ブログの拍手や、google+の+1、などなど、最近は承認してもらいたい人のための、気軽に承認できるツールが大流行りだ。ソーシャルとは、承認礼賛のツールみたいなものだ。そして、今こうして書いているこの文章だって、承認してもらいたくて書いている、と言える。

 

大勢を前にしてスピーチしたときには、どうしても「うんうん」とうなずく人に目線を向けがちなのもそうした人間の性向からなんだろう。でも、あまりにもかるく同意したり、承認したりすると、その承認自体がかるいモノになってしまうのは、あらゆる需給関係と同じだろう。アベノミクスが有効なら、「いいね!」の氾濫も決して悪い事じゃない。

 

でも、もしその言説なり、メッセージに何か「引っかかり」を感じたなら、それは「いいね!」じゃないんだろう。いや、むしろあらゆるコトやモノにいつも「引っかかり」を見いだすようにする方が、よりクリエイティブなんじゃないか。さらりと関係の網目をくぐりぬける、当たり障りのない表面的なコミュニケーションよりも、ゴツゴツと、時に周囲にさまざまな障害を引き起こしながら進むことは、とても意識的でないと難しい。生来的にそういう人もいるだろうけれどもここではその話はしない。

 

先日、知人と二人でこうした話になって、試しに「いいや、違う」と否定から入ってみたら会話がどんな風に進むかやってみた。こんな風だった。

「今日はいい天気だね」「いいや、違う」

「違うってどう違うのさ?」「うーん、まあ強いて言えば、今日の東京近郊が天気がいいのであって、日本だけをみても、天気はいいところと悪いところがあるということさ」

「まあ、いいや。そういや、こないだ読んだあの小説、面白かったよね」「いいや、違うね」「・・・」

 

まあ、互いの信頼関係があっての話であり、また極端な話ではあるけれど、とても印象的だったのは、かならず否定でかえって来る、というのは会話を続けるのに、結構努力がいるのだけど、でも、その分、普段気づかない見方を無理矢理にでも引き出したり、あるいは、否定をゲームと捉えて、それを契機に会話が弾むことがあり得る、ということだ。そして、否定される側に回る方が、テクニックが必要だとも感じた。

 

冒頭の同期は、それをほぼ初対面の70名以上を目の前にしてやってのけた。信頼関係もくそもなかっただろうに、どうとらえられるか、自分がどう見られるかなど、なんの担保もなかったのに、いきなりある意味全人格に対して否定から入ると言ってのけた。彼がその当時(22、3歳だ)、どう考えてそうした切り出し方をしたのか、聞いたかもしれないけど、その答えは覚えていない。でも、いきなり否定するには、実は無前提の信頼があったのかもしれない、とふと考えたりする。承認ばかりをもとめる風潮だからこそ、あえて否定から入ってみて、自分と他人の反応を見てみるのは、意外な発見があるかもしれない、と思う。



Author:渡辺健堂
1971年生 北海道出身 北海道大学法学部卒
卒業後、㈱日本長期信用銀行入行。コーポレートファイナンス業務、マーケット部門でミドルオフィス業務に従事。その後、ベンチャー企業を経て2000年にヘッドハンティング会社の設立に参画。2002年に同社代表取締役社長に就任。投資ファンドにおける投資先経営陣確保の重要性に着目、幅広い業界の経営者候補との強いパイプラインを築く。
2006年㈱エグゼクティブ・ボードの立上げに参画、主に金融の他、事業開発、事業企画などを得意とし、経営者発掘と投資ビジネスの融合を模索している。

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