人生訓と常識

 新しい人と話をするのは本当に楽しい。ヘッドハンティングというか、サーチというか、この仕事の一番の面白さは、自分が知らない人生を疑似体験できることだ。最近は海外での勤務経験を持つ人とお話することが多いために、ますますその経験談は興味深いものが多い。その中で改めて感じるのは、我々が常識だと思っていることは、「今(現代)の」「日本の」常識にすぎないのに、それに縛られて発想が狭まっていることが多いな、ということだ。

 

個人的に、一番刺激を受けるのは、自分が「これはさすがに、疑問の余地のないものだろう」と勝手に思い込んでいた事柄に関して、実はそうではない、ということを知った時だ。それは、そうした事象の現場に居合わせた人から仄聞的に聞くこともあるし、科学的な事象であれば本などで読むこともできる。種は本当にたくさんある。最近は、ある食品メーカーが液晶テレビを作ろうとしていた話、とか、宇宙の物質の9割は暗黒エネルギーと暗黒物質であり、それは異次元に存在するかもしれない、とか、銀座4丁目には誰のものでもない土地があった、とか。

 

一方、紋切り型の言説とかに関しては以前よりも「本当か?!」と感じることが増えた。上述のように、科学のような厳密な世界ですら(いや、だからこそ、か)、ずっと信じられてきたことが間違っていた、ということがあるのだから、自分が常識であると思っている諸々の事柄に関して、もっと懐疑的であることが本当の意味での誠実さなのではないか、と思うからだ。

 

日本がこれから迎える人類史上類を見ない人口の減少は、その量、スピード、ともに大きなインパクトを社会に与えると思う。いくつかの人生訓は、右肩上がりの社会を前提としたものである。特に継続性を重視するメッセージに関しては、市場の拡大が前提となっていることが多く、注意したほうが良い。継続性は勤勉さと結びつきやすく、一見すると人間の本質に根ざした原則をうたっているように見えるからまたたちが悪い。我々の親やその親の世代は市場拡大を前提とした人生訓がそのまま結果に現れたから、悪気なくそうした「常識」を振りかざして、自分の子供や孫に薫陶をたれたりするから注意しなくてはならない。

 

また、単純労働が機械化されて情報の伝達がITの革新により効率化したことによって、労働集約的な作業よりも知的労働の方がより価値創出をする社会になっていく中で、多様性重視が言われるようになってきた。ダイバーシティ、というやつだ。これも、いくつかの常識を覆しつつある。志向性の特殊なマイノリティを無視しても、共同体のルールを重視したほうが最終的な社会の成果が大きかった。でも、上記の通り技術革新がその前提を大きく変えた。

 

こうした変化は、自分の頭で考えることが、今後より重要になる、ということを意味している。理系の世界では常に前提を疑いながら、FACTやDATAを地道に収集し、仮説検証を繰り返すというスタイルが当たり前になっているが、それがビジネスや社会規範に関しては当たり前になっていない。なぜそうだったかといえば、多分ビジネスや社会規範はその社会の支配者の意向が働き、支配者のルールに合わせることの方が、幸せな人生を送れる仕組みになっていたからだ。でも、理系の人たちが進めてきた技術の進化が、上述の通りその前提を大きく変えてしまった。

 

今後もこの傾向は強まり、スピードは上がるだろう。だから、人生の諸先輩たちが言う「自分たちはこのやり方で、考え方で、間違いなかったよ!」と満面の笑みで善意に満ちたアドバイスを疑うことが重要だ。今までがそうであったことは否定しない。でも、これからもそうであるかというと、それはよくよく考えるべきだ。継続性、単一性、といったカテゴリーだけでなく、家族や、社会、道徳、公共といったものに関しても、一見疑い得ない「常識」が通用しないものがどんどん増える。それを一過性で誤ったエラーと見るか、本質的で不可逆な変化と見るかで今後の世界の捉え方は大きく変わる。



Author:渡辺健堂
1971年生 北海道出身 北海道大学法学部卒
卒業後、㈱日本長期信用銀行入行。コーポレートファイナンス業務、マーケット部門でミドルオフィス業務に従事。その後、ベンチャー企業を経て2000年にヘッドハンティング会社の設立に参画。2002年に同社代表取締役社長に就任。投資ファンドにおける投資先経営陣確保の重要性に着目、幅広い業界の経営者候補との強いパイプラインを築く。
2006年㈱エグゼクティブ・ボードの立上げに参画、主に金融の他、事業開発、事業企画などを得意とし、経営者発掘と投資ビジネスの融合を模索している。

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