動機と目的

 小さいことから比較的大きなことまで、人が何か行動を起こしたり、意思決定したりするのにはたいてい理由があると思う。仕事柄、そうした意思決定の背景や理由を聞き出して、個人の人となりや志向性を判断したり、推測したりするのが習い性になっている。多様な人と出会うことの多い仕事ではあるが、だからといって心理学者みたいに分析することは苦手だし、やりたいとも思わない。それでもこの仕事をしていると、人が「転機」みたいなものに際して改めて何らかの意思決定する必要に迫られることに立ち会うことになるのはよくあることで、そんなせっぱつまった状況になって初めて「自分にとって何が大切なのか」を考える会話相手になったりすることは多い。

 

自分の仕事なりキャリアなりを連続的に捉えることにためらいがなく、自分の人生の目的とそれがわかりやすく一致している人というのは楽でいい。現代の我々をとりまく環境においては、必要な情報を収集することは以前よりずっと楽になっているからだ。そんな人からすると、方程式の答えを出すように意思決定できるし、迷いがない。情報はかなりオープンになりつつあるし、適切な情報源に当たることが出来れば、かなり正確な情報を得ることができるので、あとは自分の方程式に代入するだけでいい。

 

でも、外的な環境変化の激しさが、今までの方程式の前提となっていた定数を変数に変えてしまったり、新しい変数を入れなくてはならなくすることが多くなり、自分では連続的にとらえようと思っても、非連続的に考えざるを得なくなっている場合が増えている。だから、特定の個人と話をしているときに、普通の会話なら「なるほど」で終わらせても構わないところを「そう考えるのはどうしてですか?」と聞き返さなくてはならない。

 

まあ、キャリアの現場であれば、最近の流行はグローバル人材、だろうか。ちょっと昔は経営人材とか、プロ人材とかっていうのもある。例えば以下のような展開。「グローバル人材になりたいので、英語が身につく職場に行きたいのです」「(グローバルってどういう定義だろう)・・・。なぜグローバル人材になりたいのですか?」「そのほうが広がりがあって、やりがいのある仕事ができると思うからです。国内だけだとしりすぼみなのは明らかですからね。できれば海外で働きたいですね」「やりがいってなんですか?」「社会的に価値のあるものを自らの手で作り上げることですかね」このあと延々と続きますが、この辺でやめておきます。やり過ぎると止まらなくなるので・・・。

 

キャリアの現場だと生々しすぎるのだけど、上記の例は架空の事例。で、最近あった実話でいえば、知人からとある揉め事を解決したいので、弁護士を紹介して欲しいと言われた件。その知人が、そもそもなぜその揉め事に首を突っ込んでいるのか、という根本的な構造が腑に落ちない。事案の状況から、お金目的にはなりえないし、情実絡みでもなさそう。一種の「義憤」のようなものかと思ってもみたけど、そういうもので動くタイプの人でもない。その後結局飲みに行って、他のもろもろと一緒に話をしながら、結論としてあったのは、揉め事に出てくる「悪代官」みたいな人に対して「醜い!」と思ったことがきっかけだということになった。

 

その飲み会の時に出た3つの価値基準が「真善美」だった。真は真偽の真。うそとか、にせものとかの反対語。物理とか科学とかの正しさに近い。善は道徳的なもの。善し悪し。美は美醜。この3軸のうち、優先順位としてしらずしらず重視しているものが人によって違うよね、という話になった。で、翌日ネットで真善美を検索てみたら、プラトンが出てきて、ニーチェが出てきた。またニーチェだ。でも一方、この3軸に「損得」とか「快不快」がでてこないなーと思っていたのだけど、それも要はカテゴリーが違うのかな、と思って一瞬納得しかけたけど、これはもう少し自分なりに掘ってみようと決意した。

 

結局今のところの一つの結論としては、人や行動の本質に迫るには、目的レベルではなく、その背後にある動機までいかないと分からないから、僕は「なぜなぜ」君になるのだな、ということだった。当たり前が当たり前じゃなくなった環境だからこそ、そこまで降りて行かないと、本当に必要な解決策は見つからない。でも、そんなことって、なかなか他人にはわかりえないものだよな、とも思う。自分のそれすら十分に理解しているかといえば、間違いなく「理解していない」と断言できるし。ってことは、どこまで行っても仮説なんだけど、でもより確からしい仮説を求めて、日々時間を過ごそうとは思う。最後に動機の英訳をみたらmotiveってなっていて、がっくりした。



Author:渡辺健堂
1971年生 北海道出身 北海道大学法学部卒
卒業後、㈱日本長期信用銀行入行。コーポレートファイナンス業務、マーケット部門でミドルオフィス業務に従事。その後、ベンチャー企業を経て2000年にヘッドハンティング会社の設立に参画。2002年に同社代表取締役社長に就任。投資ファンドにおける投資先経営陣確保の重要性に着目、幅広い業界の経営者候補との強いパイプラインを築く。
2006年㈱エグゼクティブ・ボードの立上げに参画、主に金融の他、事業開発、事業企画などを得意とし、経営者発掘と投資ビジネスの融合を模索している。

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