2010年9月アーカイブ

自分は判断を誤るかもしれない

この1年ほどの間、某メーカーの事業再建にかかわる仕事をさせていただき、とても有意義で刺激的な経験をした。通常、ヘッドハンティングの仕事では、経営者や事業責任者の選別と投入までのプロセスには関与することができるものの、実際にその経営者が采配を振るう段階まではなかなか関与できない。というか、関与すべきではない、ともいえる。あくまでリクルーティングのエージェントなのであるから、リクルーティングが終わった後のプロセスに関与することは百害あって一利なし、とする考え方も理解できないではない。

だが、我々エグゼクティブボードが目指す、企業の成長支援としての経営者発掘と育成のフィールド構築という目標においては、そういったある種の傍観者としての位置取りを是としない。むしろ、積極的に経営者と悩み、その経営者に紹介して活躍しようとしている候補者とその経営者とのタッグを側面支援していくことが求められるといえる。今回関与した事案においては、株主と外部取締役と、実務を担う経営陣と、現場の社員と、外部サポーターとさまざまな利害関係人と直接コミュニケートしながら、実際の事業再建において何が行われていくのかをリアルタイムに把握し、実際にその中で一緒に悩み、最適な解を探す作業に没頭した。

その中で、一緒に働くことになった、A氏との仕事は自分にとって大変有益なものであった。A氏はいわゆる外国育ちの日本人であり、日本の大学を出て外資系の金融機関でキャリアをスタートし、その後大手バイアウトファンドで若くして日本の事業責任者の地位まで上り詰めた人物だ。こうして文章にしてしまうと、いわゆるビジネスエリートの典型のような印象を受けるかもしれないが、実際に彼と話をするとそんな気配は微塵も感じさせない。腰は低いし、オヤジギャグが好きだし、すぐに飲みに誘うし、カラオケが大好きだしと、まあ、逆に典型的な日本人のような人物だ。

彼の仕事ぶりはというと、スピード感が半端なく、細部にまで目をいきわたらせながら、説得や交渉が必要な場では本当に粘り強く、あきらめず取り組み、必ず結果を出す。プロフェッショナルとして厳しいビジネスを生き抜いてきた片鱗が随所に見られる。でも、その中でもっとも感銘を受けたのは、あるひとつの考え方、取り組み姿勢だ。それは「自分は判断を誤るかもしれない」ということを本気でいつも考えて、あらゆる自分の行動を律していることだ。

たとえば、どんな些細なミーティングでも自分ひとり出ることを避けて、誰か他の人と一緒に同席する。メールは、これまた細かいやりとりも必ずCCに誰かを入れる。ミーティングなどは、「時間を合わせるのは大変だし、結局自分で決めることなんだったら、ちゃっちゃと1対1でやってしまって、前に進めればいいのに」と思うのだけど、「ちょっと、一緒に入ってもらえないかな」と言ってくる。こうしたスタンスが一貫しているので、確かに業務において「あれ、思っていた方向と全然違うじゃない」といった、後になっての誤解や齟齬が本当に少なくて済む。

仕事の現場では往々にして「これはまあ、当事者同士で決めちゃって、結果だけ関係者に報告すればいいや」とか「途中の段階であれこれ言われるのは面倒だな」とかいった理由で物事が勝手に進んでしまうことは良くある。そこには「どうせ上の人(他の人)に共有したって、この件でわかっているのは自分だけなんだから」という暗黙の自負というか、慢心があるのだろう。でも、彼にとって、それはもっとも怖いことだ。だって「自分だけでは間違ってしまうかもしれない」と心底思っているからだ。これは、彼が大規模な組織で、組織的な意思決定を、時間をかけてやっていくような官僚的な組織にいなかったから、ということもあるかもしれない。そういった組織ではすでにその考え方は社内決裁のシステムに周到に組み込まれているからだ。でも、彼がいた現場はそうではない。投資という、判断そのものが価値であり、その内容も然る事ながら、タイミングややり方を含め、自分で考えて判断を下すことがその後のパフォーマンス(投資で言うところのリターン)に跳ね返るような環境では、常にあらゆる可能性を考慮して、最善の判断を下すことだけが自分の身を助けるのだ。

この、「自分は間違っているかもしれない」ということを、どれほど深く、どれほど常時思えているのか、ということが「大切である」と思っている人は、大抵自らリスクをとる(とらなくてはいけない)場所にいる人が多い。事業というオペレーションを担っている場合、それは経営者だろうし、オペレーションを担っていないならば投資家かもしれない。そう思って、判断を下し、そして周到に実行するから、実行プロセスにおいて迷いはない。なぜなら、もう判断は十分な考慮のうえで下されているからだ。だから、その実行プロセスにおける説得は力強い。交渉も粘り強い。だって、もう、「間違っているかもしれない」ということは考慮済みなのだから。

ま、仕事だけじゃなくプライベートまで、いつもいつも自分は間違っているかもしれない、って本気で思っていなくてはいけないとしたら、それはそれで人生としてどうなんだろうと思わないでもないのだけど。


Author:渡辺健堂
1971年生 北海道出身 北海道大学法学部卒
卒業後、㈱日本長期信用銀行入行。コーポレートファイナンス業務、マーケット部門でミドルオフィス業務に従事。その後、ベンチャー企業を経て2000年にヘッドハンティング会社の設立に参画。2002年に同社代表取締役社長に就任。投資ファンドにおける投資先経営陣確保の重要性に着目、幅広い業界の経営者候補との強いパイプラインを築く。
2006年㈱エグゼクティブ・ボードの立上げに参画、主に金融の他、事業開発、事業企画などを得意とし、経営者発掘と投資ビジネスの融合を模索している。

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